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長岡アジア映画祭実行委員会!ブログ

新潟県長岡市で活動します長岡アジア映画祭実行委員会!です。

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原節子の真実



東京都知事選が本日、告示されましたがその少し前から話題となった一冊の本が『女帝 小池百合子』
まだ未読なのですがページをめくるごとにホラー小説のような恐怖を覚えたという感想を目にし、
俄然興味を持った次第で著者の石井妙子さんの名を最初に知ったのは『おそめ 伝説の銀座マダム』という作品。
銀座の高級バー”おそめ”のマダムとして第一線で活躍する著名人を相手に夜の世界で活躍、
そして東映ヤクザ映画の大プロデューサー後藤浩滋の妻として一途に愛しぬいた女の生涯を描いて
映画業界の裏話も併せて読み応えがありました。

その石井妙子さんが次に選んだの女性が“永遠の処女”こと伝説の大女優・原節子を描き切った『原節子の真実』
図書館で見かけたので手に取って読みましたが、こちらも飽きさせずに一気呵成に読み切りました。

世界映画史に名を残す小津安二郎監督『東京物語』が代表作に挙げるでしょうが、
意外にも自作で好きな映画として小津映画を挙げることを一切なく、
常々、自分の人生を切り開いていく女性を演じたいとインタビューに応え、
それは小津映画のヒロインと真逆の女性像となり
引退間際まで自身の代表作を探し求めていたという姿、
それは男が求める女性像では決してないだけに、
当時、口にするだけでも結構強さが必要かと思いながら、
それが実現できなかったことに不幸を感じたりと。


驚くのは結構、インタビューに応えていたようで、
それが歯に衣を着せず、本音をズバズバと話し、時に今風でいえばバッシングや炎上に晒されてたこと。
ただその根本にあるのが10代半ばで大抜擢されたドイツ・日本合作映画『新しき土』の撮影と、
完成してからドイツ、フランス、ニューヨーク、ハリウッドとプロモーションでまわった先々の洗練された映画界と
男尊女卑が本当に根強い日本映画を落差を思ってのことで、
戦前、いわば日本代表として世界を見聞、特にハリウッドでマレーネ・ディートリッヒと会食し
大女優の飾らないながらも周囲から尊敬される姿を間近で見た経験から開眼、
10代半ばで「西洋かぶれ」「生意気」と島国根性あふれる日本で叩かれながらも、
自己主張は強烈に言い放っていたという小津映画の奥ゆかしさとは違う姿は
今なら多くの共感を持って受け入れられたのでは、というかかなり進歩的な女性で、
著者も憧れを感じながら筆を進めているのが読んでてよくわかりました。

それでドイツ・日本合作映画『新しき土』は名前だけは知っていましたが、
これがナチスドイツが全面出資、当時ドイツが協約を結ぼうとして日本を美化し、
ドイツ人が日本のすばらしさを理解できるよう仕向けたいわばプロパガンダ映画で、
この匂いを察知し取材に何度も訪れたのが後のスパイ・ゾルゲ、
完成後はヒトラーも観賞、プレミア上映会にはゲッペルス宣伝相も出席、
そしてかのマッカーサーも完成作を観賞していたと、
映画と政治のキナ臭い一面を覗いたような作品だったんだと読んでて驚いた次第、
これは機会があれば見てみたいものだと。

それで原節子さんの生涯を膨大な資料とともに追いかけてた著者が
引退後は全く人前に出なくなったことで推測をしているのが、
戦中、多くの戦意高揚映画に出演していたことへの喪に服す意味があったのではと。
当時どこの映画会社も国策映画を製作、いわば映画界はこぞって戦争へ協力していたという不幸な歴史の中、
原節子さんも当然のように出演し映画を観て出兵、中にはブロマイドを忍ばせて戦死したであろう、
若き兵隊さんを思って、戦時中にそれらの映画に出演したことへのコメントを発してないだけに、
そのように推測したのはなるほどと頷きました。

最も思想的には女優としてスカウトした義兄の熊谷久虎監督の影響を受けてたようで、
これが結構トンデモな思想に思いましたが。

ついでに小津安二郎監督のまさに地獄を見た壮絶な出兵体験と、
徴兵を逃れた黒澤明監督を小津監督は蔑視していたこと、
さらにひ弱ながらも徴兵された山本薩夫監督は最も原節子さんを起用し映画を撮っていたので、
出兵先に上官から汚い暴言とともに壮絶なリンチを受けたこと、
確かにこりゃ、その後に反骨の社会派になるよな、
など原節子さんを巡る映画監督のエピソードも大変興味深かったです。

担当者は原節子さんと共演した方とお話しさせてもらったことがあります。
『第12回長岡アジア映画祭』で上映した『貝ノ耳』の主演で杉田愉監督とともにお招きした鰐淵晴子さんです。
http://tsukurukai.blog103.fc2.com/blog-entry-215.html

その時に『ノンちゃん雲に乗る』で共演した原節子さんの思い出を聞いていましたが、
当時、この本が発売されて読んでいればもっと詳細に尋ねてだろうなぁ、と忸怩たる思いが。
この本によれば『ノンちゃん雲に乗る』は白内障の大手術を受けた後の復帰作、
しかも初の母親役として撮影期間は短いながらも、いろんな意味で決断を用いた節目の作品のようです。

などと書き連ねましたが、一番驚いたのはちょうどこの本を夢中になって読んでいた昨日2020年6月17日は
原節子さん生誕100歳の誕生日でした。

著者がぜひ表紙にと決めた写真は大女優のオーラをヒシヒシと感じてまさに圧倒的なスタイルだと。
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