泥棒と犬

“日本から国外に脱出するには新潟が一番だ。朝鮮半島にもロシアにも行ける。”
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↑こちらで紹介した馳星周先生の直木賞受賞作『少年と犬』が文信堂書店に入荷し平積みされていたので購入。
この本を紹介した中で気になっていたのは新潟も舞台となって登場するとあったこと。
同じ犬を主人公にした6作の連作短編、それぞれ違う人物と犬の交流を綴った中で
新潟が舞台となるのは二作目の「泥棒と犬」という作品。
おそらくフィリピンからやってきた窃盗団のリーダーが日本で荒稼ぎするものの、
組織の裏切りに遭って、仙台から南相馬と東日本大震災の傷跡もまだ生々しい街を経て、
冒頭の言葉を頼りに新潟までの逃避行を切り取った作品。
海外ロケがあるため製作費がかさみそうですが、
ロードムービーとなりうる最も映画的に感じた一編でした。
逃亡中にヒッチハイクしたイラン人のトラック運転手とのやり取りも堪らなくイイのですが、
子供のころの地獄のような記憶が何度もフラッシュバックしたなかで
“犬”が自身の守り神として登場、そしてこの日本でも生まれ変わりのような“犬”とともに、
新潟を経て母国を目指すものの、、、、
ラストは新潟港と明示されてますが、これまでの馳先生の登場人物のような運命に友情が映えるのが救いなのかと。
ちなみにイラン人のトラック運転手の行き先は魚沼となっており、
担当者は魚沼の工場で全国から来たトラック運転手とお仕事したことがあるので結構リアルに思いました。
たださすがにイラン人の運転手さんはいませんでしたが。
この「泥棒と犬」と「男と犬」そして「娼婦と犬」はこれまでの馳先生の作品を踏襲したかのような主役がヒリヒリさせてくれ、
いづれもどん底におかれた状況から飛躍するには「金」とはてしなく共感してしまいながらも悲劇に見舞われますが、
他の三作は犯罪とは無縁の生活を送る人々が登場。
愛犬との生活のために軽井沢に引っ越してから山登りが趣味となった馳先生の健全さが伺え、
中でも表題作の「少年と犬」は完全にやられてしまい目頭が熱くなったことを白状します。
正直、馳先生が路線変更とまでいかないまでも、
“犬”に手を出した小説やエッセイを避けてきたのは、
それが情緒的すぎることが明白で、
それまでのダークサイドに堕ちた人間たちの右往左往が好きだった者としては
それはどうかと思ってきたのが今回直木賞受賞ということで読んだら、
予想以上に感動してしまった次第でした。
以前のようなギラギラしたものだけでなく、
「40代半ばから、片意地を張らなくてもいいと思うようになってきた。今は書きたいことを、書きたいように書こうと思っているだけ」という境地に到達しての直木賞受賞。
改めておめでとうございます。
ついでに阿賀野川でなく阿賀川が登場し、これは誤植かとググったら
福島県では阿賀川、新潟県に入ると阿賀野川になると知りました。
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