『戦争と一人の女』上映後のこと

井上淳一監督作『大地を受け継ぐ』長岡上映会開催前に井上監督と新潟で親しい方に尋ねたことがあります。
それは井上監督と師匠と聞いた荒井晴彦氏との仲はどうなの?かと。
というのも上映会後の打ち上げは殿町の居酒屋かちんこで開きたいと思い、
なぜならここは井上監督の師匠である若松孝二監督が『キャタピラー』撮影中、
撮影が早く終わると飲みに来たお気に入りのお店であり、
当時、健在だったご主人は荒井晴彦氏が脚本を書いた日活ロマンポルノ『トルコ110番 悶絶くらげ』の主演を務め、
店内にはそのポスターが掲示してあり、これはぜひ井上監督に見てもらいたいという思いがありました。
しかし何かで耳に入ったのは井上監督と『戦争と一人の女』の脚本を書いた荒井氏と対立し不仲らしいとのこと。
もしポスターを見て気を悪くしてはまずく
3,11関連の作品の中で高い評判を聞いて『大地を受け継ぐ』上映を決めたので
こちらは井上監督については当時、まるっきり知らず、
その荒井氏との関係を親しいNさんに尋ねたら、「いろいろあったようだが修復したようだ」と聞き、
それならと無事に井上監督をかちんこにご案内することができました。
http://nagaokatsukurukai.blog.fc2.com/blog-entry-1450.html
その曰くつきである『戦争と一人の女』が「シネ・ウインド 戦後75年記念特集 クロージング上映」と題し、
上映後に井上監督、荒井氏、そして同じく荒井氏の弟子で脚本を共同執筆した新潟市出身の中野太氏も参加してのトークが開かれるので、駆け付けました。
http://nagaokatsukurukai.blog.fc2.com/blog-entry-2733.html
上映後の冒頭、井上監督がこの三人で『戦争と一人の女』のトークを開くのは初めてとあり、
あ~、やはり確執があったのかと思い、
無論その前に「安部さんが辞めると流れた日にようこそ」と客席は開けてるとはいえ満席の館内に向けて一言。
話の流れで確執の原因に触れてましたが、なるほど脚本家と監督の力関係のようだと。
ちょっと大人げない気もしましたが、やはりプロ同士で譲れないということなんだろうと。
ただトークの中で印象に残ったのが主演・永瀬正敏の男っぷりでした。
上映前のビデオレターで短距離競争と話してましたが、
低予算にも関わらず、全力で過酷な減量も含め役作りに集中、
そして何かと気難しいと聞く撮影地で職人集団の松竹京都で監督が舐められないように気を配るエピソードに
なるほど、これは多くの映画人が一緒に仕事をしたいと思うわけだと。
あとヒロイン、江口のりこがバンバン脱ぎまくってましたが、
思えば初めて意識したのが『ジョゼと虎と魚たち』で、あの時も脱ぎまくってたよなぁ。
あの時とだいぶ印象が変わったように思いましたが、
今は見てないけど『半沢直樹』で大ブレイクしてるとか。
戦争映画とピンク映画の融合が企画の発端のようで、
こちらは観ながら手塚眞監督『白痴』と重なる場面が何度かあったように思いましたが、
そりゃ、同じ坂口安吾原作だし、
ただ荒井晴彦氏が書いた脚本で初めて戦争をテーマにし完成した作品というのは意外に思いました。
無論、何本も企画したのはあるのに映画化の運びにはそれまでならなかったと。
その理由の一端に日本の加害に触れるからだと。
荒井氏といえば世評で大絶賛された『この世界の片隅に』は、
加害の視点がないことで一刀両断し、炎上したことがありましたが、
それは一貫しているのがトークを聞いてて理解できました。
『戦争と一人の女』では原作にない小平義男という実在した連続強姦殺人鬼がもモデルの男を登場させ、
この男が大陸で戦争に行ってた時にいかに惨いことをしてきたかをセリフで明らかにしていくシーン、
ここが本作の要になるんだろうと。
演じた村上淳は右腕が戦争でやられて消失したという設定ですが、
これは若松監督の『キャタピラー』を重ねているとのこと。
『キャタピラー』が海外での受賞もあって大ヒットしてた頃に,
やはり荒井氏は映画芸術で『キャタピラー』について戦争を描けてないという主旨で批判しており、
当時称賛のさなかにあって荒井氏の批判は意外に思いながらも読むに値するものだと思ってました。
ちなみに荒井氏は大林監督について「長岡花火の映画を撮った人だよね」と、
何やら含み笑いし、何か言いたそうなのが妙に印象に残りました。
また中野氏は母親に戦争について尋ねたら、
父が出兵する際、駅で手を振ったことを話し、
ほんの二世代、三世代とはいえ身近に戦争があったんだと。
トークを終えてこの三人が机に並んでのサイン会となりましたが、
これはアイドルの特典会のようだと思い、
事前に話すことをきちんと考えてからいつも挑んでいるので、
今回は中野氏には担当者が絡んでた頃の「第11回長岡インディーズムービーコンペティション」の審査員をしていただいたので、そのお礼を。
http://tsukurukai.blog103.fc2.com/blog-entry-550.html
http://tsukurukai.blog103.fc2.com/blog-entry-554.html
↑こちらを読み返したら中野さんはかちんこのご主人とお会いしてたのかと。
次に荒井氏に『トルコ110番 悶絶くらげ』がブルーレイ化した際『ソープ110番 悶絶くらげ』に改題されたのは納得しているのか?
と尋ねたかったものの、何か機嫌が悪そう(まぁいつもの荒井氏のイメージですが)、そそくさとサインをいただき、
最後に井上監督へは『白痴』について尋ねたら、「もちろん見たけどまるっきり意識しなかった。それどころではなかった」と。
でもこちらの顔を見て、また協力するよと言っていただいたのは嬉しかったです。
相変わらず熱い監督でした。
現在、森達也監督はじめての劇映画を荒井晴彦氏、井上淳一監督はともに脚本を共同で書き、
題材は日本映画界がこれまで避けてきたタブーなので、
期待と同時に、無事にクランクインできますことを。
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